Case Study

社会福祉法人 庄内厚生館様

取り組みの成果を利用者にも還元。社会福祉法人の働き方改革

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庄内厚生館は、大分県由布市庄内町で子どもから高齢者、障がいのある方々などを支援する施設を運営する社会福祉法人。創立77年の歴史があり、現在は13施設で約200名の職員が働いています。同法人では2020年から働き方改革に取り組み、年休取得率向上や属人化解消などのさまざまな成果が生まれています。推進事務局の伊藤秀海様、井尾太亮様からお話を伺いました。

■4年目に突入した働き方改革の取り組みを振り返る

インタビュアー:株式会社ワーク・ライフバランス 村上健太

◎段階的に取り組みを拡大し、全社展開を実現

社会福祉法人 庄内厚生館様事例1

WLB村上:まずは庄内厚生館さんで働き方改革を始めるに至った経緯からお聞かせください。

伊藤:きっかけは、御社の小室社長が国会で働き方改革についてプレゼンされているのを目にしたことです。すでに働き方改革やワーク・ライフバランスといった言葉は頻繁に使われていましたが、社会福祉業界ではそうした視点の取り組みはなかなか進んでいませんでした。そこを先取りできないかと考えていたところ、大分県で働き方改革の実践推進事業モデル企業を募集していると知り、勇気を持って手を挙げたという経緯です。

社会福祉法人 庄内厚生館様事例2

WLB村上:当時、法人の中ではどういった課題を抱えていたのでしょうか。

伊藤:職員の人手不足や利用者さんの高齢化、貧困の問題など、さまざまなことに対応しなければならない中で、人を採用して育てることと生産性の向上にセットで取り組む必要性を感じていました。ただ、人と関わる社会福祉法人の仕事において、どう生産性を上げればよいのか想像がつかなかったというのが正直なところです。御社に関わっていただくことをきっかけに、組織全体として働き方を見直し、生産性を上げ、サービスに還元するといった好循環が生まれることを期待していました。

WLB村上:活動は現在4期目に入っていますが、ここまでの全体的な流れを振り返っていただきたいと思います。

伊藤:法人の中でも13の施設があり、1期目はどこかの施設で成功事例を作りたいと考え、手を挙げてくれた児童養護施設 山家学園から取り組みをスタートさせました。2期目以降は、最終的に全社展開するという前提のもと、自主的に手を挙げた施設から順に取り組みを拡大させていきました。

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WLB村上:最初は自走チームである法人事務局を含めて2施設、その後5施設→全施設という形で、順調に展開されていた印象があります。2期目には育児と介護のガイドブックも作成されていますが、どのような意図があったのでしょうか。

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伊藤:取り組み自体を恒常的・継続的なものにしたいという思いと、見える化したいという意図がありました。福利厚生の制度自体はもともと整備されていましたが、職員にとってわかりやすくて使いやすいものにしたいと考えたんです。

WLB村上:当初は伊藤さん主導で取り組まれ、その後は徐々に井尾さんに任せて見守るといったスタイルに変遷していったように感じました。

伊藤:1期目はおっしゃる通り、強力なリーダーシップの下で進めたようなところがありました。2期目以降、持続的な活動を目指す上では、職員の皆さんに主体的に動いてもらうことが重要だと考え、徐々に現場に主導権をスライドしていきました。

WLB村上:井尾さんは2期目3期目に事務局として取り組まれました。どのような工夫をされたのでしょうか。

井尾:年間を通じての取り組みになるので、放っておいたらズルズルと遅れが生じる危険性があります。それを防ぐために、現場のリーダーや現場に入る事務局のサポートメンバーとしっかり連絡を取りながら進めることを心掛けていました。

また、毎年行ってきた事例研究会を3年目に働き方改革の発表会へと変更しました。事例研究会を主導していた研修委員会にもサポートに入ってもらい、4期目の2023年は研修委員会が主導して報告が行われるような形を意識しました。

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◎推進する上で苦労したこと

WLB村上:改めて1期目から具体的にお聞きしていきたいと思います。スタート時にはどのようにメッセージを発信したのでしょうか。

伊藤:最初は、ワーク・ライフバランスさんに研修会を開催していただき、具体的な進め方を伝える機会を設けていただきました。うちのトップもその席に参加し、組織として力を入れて取り組むという意識を共有できたので、大きな意義があったと思います。

その後、カエル会議を実際に体験したのですが、今までにない会議のやり方であり、新鮮に感じたのを覚えています。自分たちの働き方をいったん立ち止まって見直すというのは初めての体験でしたが、みんな前向きに取り組んでいた印象があります。

WLB村上:事務局としてサポートしていく中では苦労されたこともあると思いますが、いかがでしょうか。

伊藤:当初から施設によって成果には差が出るだろうと想定していましたが、成果を強く求めすぎるとやらされ感が強くなり、主体性が乏しくなってしまいます。生産性向上などの目に見える効果は期待しつつも、それ以上に心理的安全性が高まるなどの定性的な変化を期待するようにしました。

井尾:施設によっては「忙しくて会議ができない」という声がちょこちょこ出ることがありました。そんなとき、どう声掛けをしてポジティブに取り組んでもらうかというところで苦心しました。担当者によって声を掛けやすい・掛けにくいもありますし、仕事での関わりの有無によって、個人的な距離感にも違いがあります。

そういった中で、活動自体のモチベーションを下げずにカエル会議をできる限り開催してもらう必要があります。現場のリーダーはメンバーと事務局の間に挟まれている立場でもあるので、リーダーの話もしっかり受け止めながら、「どういうことならできそう?」「こっちから施設長とかに声掛けしてみようか?」などと、後押しになるような声かけを意識したつもりです。

WLB村上:1年目は大分県の事業に手を挙げてくださいましたが、2年目は弊社にご依頼をいただくことになりました。その理由を教えていただければと思います。

伊藤:やはり、1年目と同じコンサルティング会社に関わっていただいたほうが進めやすいと感じましたし、山家学園の取り組みを通じて全体的な士気の高まりを実感していたので、この流れのまま信頼する御社にお願いしたいと考えました。

社会福祉法人 庄内厚生館様事例6

◎働き方改革による成果

WLB村上:各施設で実施されたアクションや印象に残っている成果についてお聞かせください。

伊藤:施設にまたがる成果としては、緑の家という障害者支援施設に給食管理室という部門が食事を提供しているのですが、その食事提供時間の変更が実現したということがあります。それ以前から、施設の現場では勤務シフトを組みにくく、その後の活動に支障が出やすいので、食事の提供時間を変えたいという要望がありました。それを給食管理室が聞き入れて変更したというものです。これは単独の取り組みでは実現が難しいことであり、全社展開していたからこその大きな成果だと思います。

井尾:私はいろいろな施設で属人化を解消できたことが大きかったと感じています。結果的に、休みを取る人がいても誰かが代わりに対応できるようになり、有給の日数が増えるなどの成果につながりました。

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WLB村上:利用者さんの声を聞いて充実した活動につなげた施設も多かったですね。ほかにも、あなみ保育園さんで早出・遅出の職員さん別にTシャツの色を変え、ズルズルと勤務し続ける状況をなくしていたのが印象的でした。これまで法人全体として、どのような変化があらわれているでしょうか。

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伊藤:一番大きいのは、年次有給休暇取得の増加です。「年休10日以上」を目標に掲げて活動をスタートしたこともあり、全施設共通して成果が上がっています。法人全体でいうと、平均取得日数が7〜8日だったところから11日程度にまで伸びました。

実はそれ以前から年休増加を目指していましたが、なかなか上がらない状況が続いていました。働き方改革をスタートしてからは職員1人1人の意識が変わりましたし、年休を取っていいという雰囲気も生まれ、計画的に取得スケジュールを作成する施設も増えたことで、持続的な成果につながっています。

社会福祉法人 庄内厚生館様事例9

出生数については、18・19年度の11人から20・21年度は12人に増えました。男性育休取得率も現在まで100%を維持しています。

WLB村上:素晴らしいですね。

伊藤:こういった実績が働き方改革の優良企業表彰やプラチナくるみん認定などにつながっており、それを広報していくことで採用にも好影響が生まれています。19・20年は採用エントリー数が4名程度でしたが、21年は38名に増え、22年も39名となりました。

ほかには、働き方に関してメディアの取材を受ける機会が急激に増えました。現在では年6〜7件のペースで取材いただいている状況です。

◎今後の取り組みに向けて

WLB村上:今後、さらに取り組みを定着・発展させるために考えていることはありますか。

伊藤:施設の中での取り組みは継続していきたいと思っており、今後は心理的安全性に着目した活動に注力するつもりです。また、外に向けて発信することも私たちの役割だと思っていますので、こうした取り組みに関心が強い社会福祉法人さんなどと協力したり周知したりすることにもチャレンジしたいと思います。それにより、業界全体の働き方を向上させ、地域福祉に還元していくことを目指したいですね。

井尾:今後も取り組みは継続していくと思いますが、その中で施設によっては利用者さんの支援が得意なところもあれば、業務の効率化が得意なところもあります。これから事例を共有していく中で、それぞれの取り組みを上手に取り入れ、それぞれの施設が継続しながら進化していければよいかなと思います。

WLB村上:最後に全国の施設や企業で取り組まれている方に向けて、メッセージをお願いします。

井尾:働き方改革というと、「仕事をしながら追加で取り組みをする」というイメージを持たれる方が多いと思います。けれども、実際にやってみると、最終的には自分たちに還元され、仕事がしやすくなる取り組みだと思います。ですから、「働き方改革は仕事とは別の取り組みだ」という先入観をいかに取り除けるかが成功のカギになります。そこが上手くいけば、成果につながると思います。

伊藤:社会福祉法人だけでなく、企業も世の中に貢献し続けていくことが使命の1つだと思います。そのためには従業員個人レベルで心身ともにコンディションを保ちながら、長く働きがいを持ちながら仕事をすることがとても大切です。自分たちの働き方を見直すことで新しく発見することも多いですし、地道な取り組みが企業の継続や発展につながります。ですから、まずはやってみることが大切です。まずはやってみて、自社に合う・合わないを判断しながら進めていくことが重要ではないでしょうか。

WLB村上:ありがとうございました。

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■児童養護施設 山家学園の働き方改革

児童養護施設は、児童福祉法に定められた児童福祉施設。さまざまな事情によって家族による養育な困難な子どもたちを養護し、自立に向けた支援を行っています。山家(さんげ)学園は、社会福祉法人庄内厚生館が運営する組織の1つであり、豊かな自然の中で、子どもたちが学校に通いながら生活しています。山家学園で働き方改革に取り組まれた西ゆきさんにインタビューを行いました。

インタビュアー:株式会社ワーク・ライフバランス 村上健太

◎業務効率化とともに児童に向けた取り組みも実施

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WLB村上:山家学園さんでは、2020年から働き方改革の取り組みをスタートされました。西さんがお話を聞いた当初は、どう思われましたか?

西:突然降って湧いたような話で、「働き方改革」という言葉しか聞いたことがなかったので、何をするのだろうと戸惑いました。私たちの仕事はマニュアルに沿って進めるわけでもなく、子どもと関わる中でトラブルが生じると帰れないこともあったので、「改革するのは難しいんじゃないかな」という不安もありました。

WLB村上:そんな難しさを感じながらも、初年度はどんな取り組みされたのでしょうか。

西:年休取得や環境整備、児童会の在り方の見直しなど、初年度からいろいろな課題に取り組みました。私は業務改善というより、児童の要望に寄り添ったり吸い上げたりする方法を考えることに務めました。

WLB村上:山家学園さんでは、初年度から、働く職員さんだけでなく児童向けの取り組みをされていたのが印象的でした。具体的には、どのような取り組みをされたのでしょうか。

西:児童会という会を月に1回行っていたのですが、上級生は部活やアルバイトで参加できなかったり、小さい子たちは上級生の前で自分の意見が言えなかったりします。会が終わってから個別に「どうなっちゃうの?」「こうしたかったのに」と不満をぶつけるようなことが起きていました。そこで小さい子と男の子、女の子で個別に集まり、要望を上げてもらうことにしました。現在はユニットで2週間に1回の会を設けていますが、困りごとや意見が前よりも積極的に上がるようになっています。

WLB村上:童会の参加率も100%に上がっていますが、特別な工夫をされたのでしょうか。

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西:例えば小さい子たちは土日の午前中、中高生は就寝前など、みんなが確実に集まることができる時間に会を設定し、全員参加で1人ずつ意見を聞くようにしました。最初の頃は「何か言いたいことある?」という感じで聞いていましたが、それでは何を言えばいいかわからなかったり、怒られるんじゃないかと心配したりする子が出てしまいます。そこで、「1週間の生活を振り返ってどんな困りごとがあった?」「その困りごとに対して『こうしてほしい』という要望はある?」といったように、答えやすい設問に変えました。それによって意見が言いやすくなったと感じています。

◎取り組む上での苦労

WLB村上:西さんは2022年にサブリーダーとして取り組まれましたが、どんなところに苦労しましたか。

西:時はコロナの問題もありましたし、施設の引っ越し時期とも重なっていたので、カエル会議を設定しても流れてしまうことがありました。そんな中、確実にカエル会議を開催するために、日時を厳守し、全員参加でなくても進めることにしました。参加できない人がいるグループでは、事前にグループ内で話をしてもらい、出席者に意見を託すという形で活動が停滞しないように心掛けました。

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WLB村上:「グループ」というお言葉がありましたが、テーマ別にグループを作って活動されましたね。

西:アクション項目ごとに何人かでグループを組みました。1年目はアクション項目が多く、2人1組のグループも多かったので、2年目以降はグループ数を絞って5人ずつくらいにしました。2022年でいうと「業務推進(タイムスケジュール作成)」「業務推進(情報共有・報連相の方法)」「児童支援の在り方」「環境整備の方法」の4グループです。

◎年休取得が飛躍的に伸びた!

WLB村上:ここまで取り組みをされてきて、どのような変化が出てきていますか。

西:年休の日数は確実に増えました。もともと平均3〜4日で、2日程度しか取れない人もいましたが、現在は平均11日程度にまで伸びています。私自身も、年休を取ってゆっくり過ごしたり、県外の実家に帰省したりできるようになりました。

環境整備については、以前は「気づいた人が気づいたときにする」という感じで、結局同じ人が取り組むような状況でしたが、現在は実施する日時を決め、職員と児童合同で清掃を行う機会も継続的に作っています。皆で協力すれば30分程度でできますので、皆で一緒に取り組もうという意識に変わってきました。

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WLB村上:環境整備に関しては、引っ越しの機会も上手に活用されていましたね。ほかにはどのような成果がありましたか。

西:「男性職員は環境整備」「女性職員は児童支援」といったように、以前は男女で業務を振り分ける傾向がありました。でも、別に男性ができない業務もなければ、女性ができない業務もないので、すべての業務を皆で取り組めるようにしました。業務の内容を表で見える化し、人によって偏りが出ないように工夫しています。

WLB村上:男女間の業務の偏りを解消するだけでなく、タイムスケジュールも活用されていました。

西:「遅出で出勤してきたら、まずこの時間にこういう仕事をして、児童が帰ってくるまでにここまで終わらせておく」といったように、職員の行動を統一すれば、残業も減らせるようになります。以前は、誰がどこで何をしているのかわからない時間もたくさんありましたが、今は「この勤務のときは、こういう動きをする」というのが明確になり、仕事を抜けるときには他の人にお願いできるようにもなったので、業務がスムーズに進むようになっています。

WLB村上:職員さんどうしの情報共有では、何か工夫をされていますか。

西:移転に伴い施設が分かれ、職員間の関わりが少なくなってしまったので、職員全員でグループLINEを作り、朝礼の内容を共有しています。これにより、遅出・休みの人も1日の流れがわかるようになりました。また、新たに昼礼を行うようにしたことで、午前中に生じた突発事項も共有できるようになっています。

今は、金曜日のうちに土日の動きを決めて共有することも行っていて、職員が少なくなる土日もスムーズに業務が進められるようになりました。

◎今後の取り組みに向けて

WLB村上:現在はお取り組みが4年目に入っています。今後はどのように定着・発展させていこうとお考えでしょうか。

西:年休は今のペースで伸ばしていきたいですし、取り組みも継続していければと考えています。職員にゆとりが生まれたり、時間が増えたりしているので、もう少し児童の話をする場を設けたり、児童主体で行事ができるようにサポートしたりと、児童にもっと還元できるようになれば理想的ですね。

WLB村上:これから働き方改革に取り組もうとされる方、現在苦戦されている方に向けてメッセージをお願いします。

西:組織の中では何が課題なのかわからず、ただ仕事が大変な状況が続いていることが多いと思います。その意味では、働き方改革は具体的な課題を知るための良いきっかけだったと感じています。例えば、今までは年休を取ることに抵抗感があり、積極的に取ろうと思いませんでしたが、「やっぱり取りたい」「取れないとおかしいよね」と声を上げ、解決策を実行することで取得日数を伸ばすことができました。こういった変化を実感していただけると嬉しいです。

WLB村上:ありがとうございました。

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担当コンサルタント
村上健太

 

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