Case Study

豊田市立堤小学校様

「働き方改革の先に子どもたちの笑顔があること」というぶれないゴールを見据え軸を持ち、 本音の会議→大幅な残業削減! 〜豊田市立 堤小学校の働き方改革〜

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「働き方改革の先に子どもたちの笑顔があること」というぶれないゴールを見据え軸を持ち、 本音の会議→大幅な残業削減! 〜豊田市立 堤小学校の働き方改革〜

「うちの業界は働き方改革が進みにくい」と感じる人は少なくありません。今回ご紹介するのは、「なかなか進まない」といわれる公立小学校での取り組みです。学校という組織は「業務の時間や内容に自由度が少なく、残業も減らせない」というイメージが強く、改革は難しいと考えがち。
しかし、現場にあったやり方で粘り強く進めていけば、成果は必ず出てきます。「働き方改革の先に子どもたちの笑顔があること」という共通指針を掲げた、豊田市立堤小学校の本音の改革。「うちの自治体・学校でもぜひ取り組みたい」と、背中を押してもらえることでしょう。

【主な成果】(2022年1月現在)~時間外勤務月平均時間の、改革実施前と実施後の比較~

  • 60時間以上の教員数
    Before:令和元年度(前期)・・・12人
    After:令和3年度(前期)・・・2人【83%減!】★月平均80時間以上はゼロに!!
  • 45~60時間の教員数
    Before:令和元年度(前期)・・・18人
    After:令和3年度(前期)・・・5人【72%減!】
  • 45時間未満の教員数
    Before:令和元年度(前期)・・・15人
    After:令和3年度(前期)・・・23人【約1.5倍!】

【取り組みをサポートする「ブルーバード」について】
本事例は、弊社の「認定上級コンサルタント」である西尾果小里さん(第5期WLBコンサルタント養成講座卒業)が代表を務めるNPO法人ブルーバード(愛知県豊田市)がサポートしているもの。西尾さんを含む4名のワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座を卒業したコンサルタント(写真は西尾さん(右)と津村さん(左))が今回の改革に併走しています。


西尾さんは、昨年弊社が開催した「第2回事例共有会」で見事優勝。そのすばらしい取り組み内容をもっと多くの方に広め、教育現場の働き方改革を後押しすべく、弊社HPでもご紹介することにいたしました。

なぜ、公教育で働き方改革が必要なのか? なぜ、難しいのか?

学校の働き方や労働環境の改善は「待ったなし」の局面を迎えています。昨年、文部科学省が立ち上げたSNSには長時間労働の改善などを訴える投稿が相次ぎ、教育現場が疲弊している実態が改めて浮き彫りになりました。

授業やテストの準備、保護者への書類作成や日々の対応、会議・研修といった多様で煩雑な職務に加え、コロナ禍の諸対策やデジタル化対応なども急務となり、教職員の労働環境は厳しさを増しています。こうした実態を前に、教員を志望する若者が減り、採用に支障が出始めているというデータもあります。

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多忙の常態化は他業種にも多々見られますが、学校の改革はとくに進みにくいといわれます。その理由は、学校という一組織だけで変更できない点が多いこと、教職員自身に「子どものため」という思いが強く、働き方改革への抵抗感があること、保護者がどう感じるかを考慮する必要があること、などが挙げられます。

しかし、すべてにおいて解決の糸口はあります。単独でできないことは他校や教育委員会との連携を取り、保護者にも「子どものためになる方向性」を示しながら相互理解を深めることが可能です。何より重要なのは、教職員が自分の有意義な時間を確保することで、より良い教育を子どもに提供できること。学校の働き方改革は、子どもたちのためにこそ必須なのです。

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とはいえ、公教育の場で具体的な取り組みを進めるのは至難の業。そんな現場に寄り添うように併走して、進みにくかった働き方改革を一歩も二歩も先へと導いたのが、NPO法人ブルーバードです。

堤小学校事例4左から堤小学校小山校長、NPO法人ブルーバード西尾さん(株式会社ワーク・ライフバランス認定上級コンサルタント)、津村さん(株式会社ワーク・ライフバランス認定コンサルタント養成講座卒業生)

「働き方改革の先に子どもたちの笑顔があることという共通認識を言葉にしたのが大きかった」──堤小学校・小山校長に聞く

堤小学校がある愛知県豊田市の教育委員会では「教職員多忙化解消プラン」と銘打ったプロジェクトのもと、さまざまな取り組みを進めています。2019年度の教職員へのアンケート調査では「業務改善の成果が感じられた」という意見も多く見られたといいます。しかし、学校の現場には勤務時間外の在校時間が月80時間を超えるという教職員が依然として少なくありませんでした。

一方、豊田市を主な活動地域とするWLBコンサルタントの西尾さんと津村さんは、子を持つ親としても教育現場での働き方に強い関心と懸念を持っていました。そこで豊田市教育委員会に早急な改革の必要性を粘り強く訴えかけ、働き方改革サポート事業を提案。当時、研修時間の削減なども推し進めていた同教育委員会は、ただでさえ忙しい学校現場に、新たな取組を持ち込むことに大きな懸念を示しました。しかし、現行の取り組みだけでは解消しきれない事柄への「新たな打開策」を求めていたこともあり、実行を決意。

こうして、「取り組みをさらに一歩進めたい」と考えていた豊田市教育委員会と、「あらゆる人、組織、社会のはたらく喜びを実現したい」と考えるブルーバードが共働して、モデル校2校の多忙化解消/より良い働き方の実現を後押しすることに。教職員のワークとライフのバランスを改善し、「児童と向き合える時間が十分にある環境」を生み出していったのです。

いったいどんな風に現場が動いていたのか、まずは堤小学校校長・小山先生にお話を伺いました。

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小山校長:取り組みを始めたきっかけは、正直なところ教育委員会からやってと言われたからでした。でも、教職員の働き方を変える必要性は前々から認識していて、取り組むべきテーマであることは明らかでした。せっかく機会があるのなら、本気でやろうと。

西尾さん:「現場に任せるが、何かあれば責任は取る」という方針を決めてくださったことが、現場には大きな影響力がありました。現場のやる気に対して「じゃあ、やろう」と応える校長先生の覚悟や姿勢がすばらしかったです。

小山校長:それぞれに役割分担があると思います。自分は責任を取る立場。自分が叱られたら叱られたでいいやと考えていました。

西尾さん:先生の勤務開始時間と子どもたちの登校時間のギャップなど、難しい慣習にも取り組んでくださいました。

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小山校長:勤務は8:30からですが7:50には登校している子がいて、「時間外だから」と放っておくわけにはいきません。でも、いつかはやらなければならない課題でした。教育委員会や他校の校長たちにも根回しをした上で、検討・調整、実験的に実践、また検証・・・と3年かけて取り組んでいます。

WLB(弊社):働き方の慣習を変えることに反発を感じる先生もいらっしゃったのでは?

小山校長:「働き方改革の先に子どもたちの笑顔がある」と考え、取り組みを通じてずっと伝えてきました。先生方はみんな子どものことを考えているので、「子どもたちの笑顔のためにやるんだ」ということを、ぶれずに持っていたんです。

中学校などはまた違った課題もあるでしょうが、堤小学校では大きな反発はありませんでした。先生たちの年齢層も若くなってきていて、男性も女性も、小さなお子さんのいる先生が当たり前というのもあります。中には遅くまで仕事をしたがる若い先生もいますが(笑)、全体的に、効率よく働いて帰ろうという主旨に異論はなかったですね。

WLB(弊社):他校や他自治体と足並みを合わせなければ・・・といった同調圧力はありませんでしたか?

小山校長:むしろ、取り組み内容を教えてほしいという相談がいくつかありました。刈谷市教育委員会や市からは視察があり、他市の校長会からも問い合わせが来ています。ほかの市でも「取り組まなければならないのはわかっているけれど、どうしたら・・・」と、関心が強いようです。

「やらなきゃいけないことはわかっている」 「自分たちでもできる範囲では取り組んできている」 「でもそれ以上先に進めるにはどうしたら・・・?」 というときにブルーバードのコンサルタントに入ってもらい、第三者視点からの推進力や問いかけをいただいて、さらに一歩踏み込めたと思います。

WLB(弊社):普段の学校運営ではどういった心がけをされていますか?

小山校長:私から特別なことはしていませんが、普段から素直に意見を出してくれる先生が多いです。あとは、「子どもたちの笑顔のため」という共通の認識を言葉にしたことと、根回しを心がけたことがよかったのかもしれません。

津村さん:そしてやはり、校長先生自らが「働き方改革の責任は持つ」という覚悟をしてくださったことが、本音で話せた大きな理由だと思います。任せながらも細やかなケアをされ、困っている点をじっくり聞いておられた印象があります。 管理職と現場とで腹を割った相談ができないケースは非常に多いのですが、「小山校長は働き方改革について話をしっかり聞いてくれる」と先生たちが実感できたことは大きな成功要因でしたね。

小山校長:確かに、1時間も2時間も校長室に来て相談をしてくれましたね。

全体を通したイメージとして、昨年が「計画」の年、2年目の今年は「実践」と位置づけています。昨年も時間外労働の時間は削減できていました。今年度はまだ全体としては検証しきれていませんが、時間外労働がさらに減少し、土日出勤も減っています。昨年度割り出した「改革による時間削減の見込み」に近い数字になりそうな体感はあります。(「改革による時間削減の見込み」:行事の見直しでひとり年間93時間、宿題の見直でひとり年間100時間、部活動の見直しでひとり年間40時間、日課の見直し:ひとり年間140時間)

これからも「子どもの笑顔につながっているか」という観点で変化や成果を見極めていきたいと思います。

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堤小学校が「一歩先の働き方」に踏み出せたポイントとは?

堤小学校は12人の推進メンバーを選抜し、そのチームを中心にして働き方改革を進めましたが、目指したのは「教職員全員で目的に向かうこと」でした。

西尾さんたちのアドバイスもあり、推進担当者だけで結論を出すことはせず、早い段階から全職員の意見を聞き、徹底的に話し合い、本音で向き合うことを心がけたそうです。決まりかけた施策にも、「大変な思いで取り組んでいる推進メンバーに遠慮して本音が言えていないのでは?」というひとりのつぶやきをキャッチして一旦立ち止まり、再度全体の意見を聞いて、教育的意義を根本から見つめ直しながら試行錯誤して結果を出してきました。

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堤小学校の大きな特徴は、「できるかできないか」よりも、まず「やる!」と決めたこと。できない理由を考えるのではなく「何ならやれる?」「どうすればできる?」と「できる方法」を前向きに議論できる組織になっています。

ブルーバードでは、以下6つのポイントを意識しながらサポートを続けたといいます。

  • 1)手挙げ式でチームメンバーを選出
  • 2)思ったらすぐ動く!まずやってみる
  • 3)本当に手を付けたいことに取り組む
  • 4)目的とメリット・デメリットを考える
  • 5)スケジュールから逆算して段取り
  • 6)全教職員の「本音」を大切に進む

※より具体的な進め方が公開されていますので、こちらの資料https://wlb.box.com/s/rm649zkhnis1amhwh7p6nvqxrkae70ftもぜひご覧ください!

そうして実践された施策のひとつが、日々の宿題を減らすというもの。当初は、「全学年で宿題を縮小する」という案を出していた推進メンバー。先生たちから反対意見は上がっていなかったものの、実際に1つのテーブルで本音で話し合いをすると、「低学年のうちは、色々やって得意・不得意を知るのも大事」、「音読・計算カードは必須!」など、ベテランの先生方の経験と熱い想いがたくさん飛び出しました。そこで、低学年→中学年→高学年と段階を分け、堤オリジナルスタイルの宿題の出し方を設計。最も忙しい高学年の担任の負担が減るように、段階的に宿題を減らしつつ、児童の自主性が高まる様な仕組みを考えました。担当する学年にもよりますが、今まで1時間以上かかっていた宿題のチェックが、15分以内で終わるようになっている先生も多いそうです。

ほかにも、学校にはさまざまな行事・イベントがありますが、「本当に学習効果が出ているか。本来の狙いや意義が達成されているか」を改めて考え、必要に応じて見直しをしているといいます。保護者からの意見はアンケートで集めるなど、工夫をしながら進めているそうです。

実際にやってみたことで、宿題のやり方についても、さらに改善できそうな点も出きているようですが、これを今後、どのようにより良い教育へつなげていくのか、皆で検証を続けると言います。当時の本音の話し合いは、推進メンバーも「先生方の様々な意見を聞くことができ、とても良い勉強の場になった」とのことで、これを繰り返すことが、本当に意義ある改革のために必須であると実感されたそうです。どんな場合にも「子どもの笑顔につながっているか」という前提があるため、ぶれずに議論を重ねられるのでしょう。

推進メンバーとして改革を実行してきた先生たちが、今思うこと

推進メンバーとなった先生たちに、改革を進める上でのポイントや苦労談をうかがいました。箇条書きでご紹介します。

堤小学校事例9(左)冗談と本質と数字で魅せる!絶妙なバランス感覚で納得を引き出すリーダー、永田先生
(中)「先生、意見をください!」といつも本音勝負で周りを巻き込む情熱家、八代先生
(右)異動されたばかりだからこそ思い切った提案を実現!勇敢な切り込み隊長として風向きをかえた浅岡先生

  1. ●ボトムアップは大事ですが、上の先生たちの協力が不可欠。先輩たちが応援し「やるきスイッチ」を押してくれました。
  2. ●「今のままでも、うまくいっていないわけではない」という意見も多かったですが、「自分たちが働きやすくなれば子どもたちとももっと向き合えるから」と考えて、進めてきました。
  3. ●土台となる会議がうまくいかなければその後も進みません。以前は「どうせ言っても却下されるだろう」という雰囲気があったので意見が出にくく、生産性のある会議ではなかったので、それをまず変えていきました。
  4. ●最初は付箋に「どんなことが不必要か」を書き出してもらいました。それを校長先生が見て、すぐにやめることができたんです。おかげで「続けていけばいろいろ変えられる」と実感できました。
  5. ●付箋ワークはおすすめ。みんなの関心が高いところに手を付けられます。模造紙を貼っておいて「いつでもいいから書いてください」としておくと、後から思い出して貼るということもできました。
  6. ●推進メンバーだけでなく職員室の他の先生たちにも書いてもらうことで「全員が参加している」という雰囲気が作られていました。
  7. ●ある程度内容が固まった時、校内イントラネットに第1案を投げ、「ご意見ください」とつけて賛否を確認したら、ほぼ賛成ばかりでほとんど意見が出てこなかったんです。「このまま進めよう」という声もありましたが、「頑張っている私たちに遠慮して本音が言えていないのではないか」という違和感がわきました。生徒に本気で向き合おうとしているんだから、全職員の本音を聞かなければいけないと、コンサルタントの提案もあり全体会議を2回実施。校長先生に相談したらすぐに調整してくれました。
  8. ●校長先生には積極的にアプローチしています。「先生、今やっています〜!すぐ来てください!」と教室の窓から手を振ったこともありました。校長先生は「自分がいたら意見を言いにくいだろう」と考えていたようですが、いてくれたらその場で決まる内容も多々ありますし、私たちの士気も高まります。
  9. ●何事も保護者に浸透するまでには時間がかかるだろうと感じています。たとえば学芸会は、準備に時間がかかるわりに子どもがそれほど活躍できないのに対し、学習発表会なら、子どもがたくさん発言できるという「理由」があるのですが、保護者にその真意や背景は伝わりきっていないのかなと。でも、時間がかかってもしっかり伝えていけばよいと思います。
  10. ● 学校の現場でも働き方改革はできる!ということを全国に広めたいです。方法はいくらでもあります。第三者であるコンサルタントが入ることで、「やらなきゃいけないよね」「できるかもしれない」という空気感が醸成されたり周囲を巻きこみやすくなったりするので、ひとつの大きなきっかけになると思います。
  11. ●成果は数値にも出ていて、ほとんどの教員の在校時間が減っています。時間外勤務は月平均で10時間削減。意味のある時間を生み出せている実感があります。

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本気だからこそ本音でぶつかってくる先生と〜担当コンサルタントより〜

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西尾さん: 私たちが提供するコンサルティング内容に対して、先生たちはイメージギャップもあったようです。「こうすれば良い、という答えをもらえる」と思っていたのに、違った」と言われました(笑)、「私たちはあくまでも黒子です。みなさんのやりたいことをみなさんで進めるんです、そのお手伝いをします!」と何度かお話ししました。

コンサルティング初日、「忙しいのになぜこんなことをやるんだ、意味のないことはやりたくない」と露骨な不信感をぶつけられるところからスタートしました。でも、「私たちも意味のないことなんてやりたくない、本気で現実を変えましょう!」とお伝えしましたね。

津村さん: 改革といっても形式だけだろうと思っていた先生もいらっしゃったかもしれませんが、そうしたやり取りを経て、「みんなで本当にやろうよ」という雰囲気が醸成されていきました。先生方が私たちに対して本音でぶつかってきてくださったのは、本気度が高かった証拠だと思います。

西尾さん: 教育委員会への不満を募らせる先生もいらっしゃいましたが、それだけ、何とかしたいという思いと、何ともならない現実のギャップに苦しんでいたということですね。「自分たちではどうにもできない」という絶望感は苦しいものですが、実はそう思い込んでいるだけの部分もあったりします。最初にモヤモヤしていることや希望などをざっくりと出してもらって、自分たちで動けるところは動いてもらい、教育委員会への質問や提案など、私たちが動けるところは私たちでどんどん動くという形を取ることに決めました。役割を分けることで、先生たちが安心して、自分たちが取り組めることに集中していただけたのではと思います。

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子どもたちは日本の未来を担う大切な存在です。そして学校は、そんな子どもたちを育てる場です。現場で働く先生たちが日々の業務で疲弊し、「夢を持って働けない」「児童と接する時間を十分に確保できない」という状況になっているのなら、それは保護者も含めて考え、積極的に改善していくべき課題ではないでしょうか。

「自分たちの自治体・学校でもまだまだできることがありそうだ」「自分の子どもが通っている学校の働き方改革を後押しできるように何か動いてみよう」など、それぞれの立場でできることをまずはやってみる。今回の事例がそんな行動の後押しになったら幸いです。

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担当コンサルタント

※撮影時のみ、マスクを外して行いました。

文/山根かおり

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