山崎醸造株式会社様
【トップ対談】社員1人ひとりの自主性・積極性がアップ!残業を減らし賞与還元も行った新潟県の老舗味噌・醤油メーカーの働き方改革
山崎醸造は、新潟県小千谷市で味噌・醤油を醸造する老舗企業であり、時代のニーズに合わせた各種商品が県民をはじめ全国から強い支持を集めています。同社は社員の自主性・積極性を引き出し、スピードを高めながら業務の効率化・属人化解消等に対応すべく、弊社の「働き方コンサルティング」の導入を決定。2023年9月から、各部署が課題解決に向けた取り組みを進めてきました。約1年が経過した今、同社にはどのような変化が生まれているのでしょうか。代表取締役社長の山﨑亮太郎様にお話を伺いました。
インタビュアー:株式会社ワーク・ライフバランス 桜田陽子・村上健太
■新潟県を代表する味噌・醤油メーカー
WLB桜田:最初に山崎醸造様のご紹介からお願いします。
山﨑様(以下、山﨑):当社は、もともと山崎酒造所という造り酒屋が発祥です。残念ながら昭和12(1937)年に火災にあい、戦時下で原料のお米が統制のもとにおかれたこともあり、酒造りが続けられない状況に追い込まれました。そこで、同じ発酵食品という観点から味噌・醤油の製造へとシフトし、昭和15(1940)年に山崎醸造を創業しています。当時は味噌・醤油も配給制でしたので、軍から指示を受け、動員された学生さんにも手伝っていただきながら製造していました。
昭和15年の創業ですが、当時としては最新鋭の工場を構えており、今でいうインスタント味噌のように乾燥させた味噌を袋詰めにする商品を作っていました。ただ、戦時中は軍の発注にしたがって商品を納めていましたから、戦後は取引先がゼロの状態から再出発を余儀なくされました。幸い、新潟県では戦後に米菓メーカーさんが相次いで創業されたので、米菓に合う醤油を開発して納めることで、徐々に成長することができました。
WLB桜田:商品へのこだわりやモットーについてもお聞かせください。
山﨑:毎朝、従業員全員で唱和しているモットーが「確かな商品づくりを通じて、豊かで健康的な食生活に貢献する」というものです。食品業界では、産地偽装などの問題がありましたが、やはりしっかりしたものづくりが基本だと認識しています。
当社は2004年の新潟県中越地震で工場の全壊を経験していますが、再出発にあたって第一に考えたのが衛生面の強化です。震災前は衛生面で遅れていた部分がありましたが、立て直しの際には最新鋭の設備を導入しました。
そして、今力を入れているのがアレルギー対応商品です。新潟県はお米の産地ですので、以前から当社でも米醤油の開発に取り組んでいました。なかなか満足のいく色や味わいができなかったのですが、ようやく商品化にこぎ着けました。アレルギーを持つお子さんがお友だちと一緒に給食を食べることができず、さみしい思いをしている状況がありますが、そういった問題の解決に貢献でき、全国からたくさんの反響をいただきました。ほかにも、卵や大豆を使わないお米のマヨネーズの開発も進めており、できるだけ早く量産化と安定供給を実現したいと考えています。
■働き方改革を始めたきっかけ
WLB桜田:時代や環境の変化に合わせて設備を導入し、お客様のお声を聞いて商品作りを進められてきたことがよくわかりました。御社は非常に歴史が長いので、働き方や風土を変えていくことに難しさがあると思うのですが、働き方改革を始めるに至った背景や当時の課題などについてお聞かせください。
山﨑:先ほど中越地震のお話をしましたが、地震を経験した社員と地震後に入社した社員との間に、なんとなく見えない壁があるのを感じていました。また、以前は「先輩の背中を見て覚える」という業界特有の風土がありましたが、今の若い世代にはそれが通用しなくなってきており、仕事に対する不満の一つとなっていました。
我々は商品を生産する上で温度や湿度といった数値を大切にしていますが、経験から得られる勘や五感を通じた感覚も非常に重視しています。そういった部分は伝承が難しく、次世代にわかりやすく伝える必要性も感じていました。
残業については特別多い会社だとは思いませんが、有給消化の推進も課題です。以前から有給を1時間単位で取る制度を整えており、有給消化率も国の平均より良かったのですが、せっかくある制度をもっと活用してほしいと思っていました。
また、私自身が子育てを通じて育児の大変さを知りましたし、小千谷市のような地方でも核家族化が進行しています。夫婦が共に育児に参画できるよう、女性活躍や男性育休取得も今まで以上に進めたいと考えていました。そんな折、新潟県の味噌醤油組合で桜田さんと村上さんのセミナーを拝聴し、「こういう考え方があるのか」と気づかされたのが大きなきっかけとなりました。
■自主性・積極性とスピード感を高めたい
WLB村上:2023年9月から私たちが関わらせていただき、まず従業員の方5名にヒアリングを行い、その後、取り組みを進める3課それぞれが目標を定めるワークショップを行いました。コンサルティングを導入するに際して、社員の皆さんにはどのようなことを期待されていたのでしょうか。
山﨑:自分たちで考えて、自分たちの環境をもっと良くしていくという自主性と積極性が生まれてくることを期待していました。あとはスピード感ですね。私はもともと東京の食品商社に勤務しており、担当先がコンビニさんだったのですが、商品の発売サイクルやサービスの変化が非常に速いのを感じていました。そもそも都心と地方ではスピード感が違うのですが、それでも当社はゆっくりしているところがあり、もう少しスピード感を高めたいと考えていました。
WLB村上:3課それぞれの取り組みが進む中で、社長としてどのように関わってこられたのでしょうか。
山﨑:ワーク・ライフバランスさんから地元のテレビ新潟さんの勉強会をご紹介していただいて参加したとき、デスクのところに「悩んだら即相談」「20%で相談」などと書いてあるのが目に入りました。私たちは、日頃からすぐに相談したり意見を言い合ったりすることができていなかったので、そういった文化を定着させ、意思決定と実行につなげたいと考えながら取り組みました。
WLB村上:御社内でも「笑顔で話を聞く」といったルールを会議室に掲示されていましたね。それ以降、社員の方のコミュニケーションは変化したのでしょうか。
山﨑:カエル会議の議事録などからは、自分たちの環境をどう変えていくかを真剣に議論している様子がうかがえます。当社には昔ながらの慣習で続けてきた余計な業務があり、例えば総務部では郵便物が誰から届いたのかを記録する業務に毎日30分程度かかっていました。そういった作業で残業になるのはもったいない話です。必要な作業は残しつつも、いらない作業はこれを機にやめたいと思っています。
■取り組みを通じて見えてきた成果
WLB村上:ほかにも取り組みの中で社員の皆様の変化を感じたエピソードがあればお聞かせください。
山﨑:これまでQCサークル活動を続けてきたのですが、ここ数年はやらされ感が出てきており、それを変えたいと思っていました。取り組み初期の頃、製造部から「職場の雰囲気を良くしてコミュニケーションを活性化するために音楽を流したい」という要望がありました。機械のトラブルに気づきにくくなるので私自身は否定的だったのですが、「機械が動いていないときに、気分転換のためにも音楽を流したい」という再提案を受け、最終的にOKを出しました。自分たちのやりたいことを明確にして、それを実現するための方法を工夫して再提案してくれたのを見て、社員の成長を感じました。
このように「やりたいことがあれば自主的に提案をしてもいい」という認識は、確実に浸透していると思います。今後、何が問題で時間がかかっているのかがクリアになり、それを改善していけば残業時間はもっと減るでしょうし、有給消化率をもう一段上げることも可能だと思っています。細かく見ると、役職者の消化率は若干低い傾向があるので、できるだけ100%に近づけたいと思っています。
WLB村上:2021年から23年にかけて残業が年間38時間減少し、有給取得は31.6ポイント増え、売上は110%、利益にいたっては190%と、着実に数字に現れているのが素晴らしいと思います。現時点でも有給取得が上がっていますが、もう一段上を目指していることにも感銘を受けました。
ところで、御社では残業代が減った分は賞与に還元されているとお聞きしています。
山﨑:大手に比べるとまだまだですが、今期の昇給や賞与に関しては昨年より上げています。社員には「5年ぐらいかけて約1割は還元できるようにしていきたい」と伝えています。また、残業代削減に限らず、1人当たりの生産性や利益を高めていくことも重要です。今後も頑張った分は還元していきたいと思っています。
先日は取引先様のホテルで勉強会を開催しました。今までは、お子さんがいる家庭では終業後の勉強会への参加が難しいなど、全員参加の場をつくるのが難しかったのですが、今回はお子さん連れをOKにして、子どもの宿泊料金も会社で負担しました。結果的に参加率も良かったですし、取引先様のサービスを学ぶ良い機会にもなりました。そういった学びが新しい商品やサービスのアイデアにもつながると期待しています。
■女性活躍と男性育休を加速させたい
WLB桜田:最初にご相談いただいた際に、「女性活躍についても積極的に取り組みたい」と山崎社長がおっしゃっていたのが印象的でした。現在、女性活躍は、どのように取り組まれているのでしょうか。
山﨑:当社にはまだまだ古い考え方が残っており、例えば「女性は力仕事ができないだろう」「重いものを持つのは無理だ」といった認識でストップしていたのですが、同業他社の工場を見学させていただき、女性が生き生きと働く姿を見て大きな刺激を受けました。今は、さまざまな業界で男女平等の意識も浸透していますし、設備も進化しており、女性が働きやすい環境を整えることが可能になっています。
現在は小千谷市でも行政が女性活躍の取り組みを始めており、セミナーなどを通じて各社の情報も入ってくるようになっています。そういった情報を参考にしたり、社長さんや担当者の方に直接お話を伺ったりしつつ、参考になるところは取り入れ、意欲的な女性を少しでもサポートしたいと考えています。
WLB桜田:フォークリフトの免許がいらず、力の弱い女性でも高齢の方でも扱いやすい、小型のフォークリフトを導入されたり、誰もが働きやすい職場作りにつとめていらっしゃいますよね。
男性育休についてはいかがでしょうか。
山﨑:ワーク・ライフバランスさんからご指導いただいた期間中に、営業職の男性が育休を2か月間取得しました。当初は「大丈夫かな」と心配していたのですが、育休を取得した社員からも「子どもが成長する過程を見ることができ、楽しかったし勉強になった」という感想を聞き、やったかいがあったなと感じております。
■2つの宣言と今後のチャレンジについて
WLB村上:2024年8月には「勤務間インターバル宣言」と「男性育休100%宣言」への賛同を表明し、記者会見で宣言していただきました。勤務間インターバルへの思いについてもお聞かせください。
山﨑:先ほどお話ししましたが、私は以前、東京の会社に勤務しており、埼玉県から都心のオフィスまで往復2時間かけ、満員電車に乗って通勤をしていました。当時は、毎日のように残業が続き、疲れが蓄積してなかなか抜けなかったんです。そういった経験も踏まえて思うのは、健康を維持しながらパフォーマンスを上げるには、心と体をしっかりリフレッシュすることが大事だということです。当社は勤務間インターバルに対応できる状況ですし、社員に時間を有効活用してオンオフを切り替えてもらいたいと考え、健康経営を推進したいという思いで、宣言させていただきました。
WLB桜田:今後チャレンジしたいと考えていらっしゃる取り組みがあれば、ぜひ教えてください。
山﨑:当社は近年、女性社員が増えています。私自身は入ることがないので気づいていなかったのですが、女性更衣室や休憩スペースが手狭になっており、改善の要望がありました。そこでスペースを改修するタイミングで、テストキッチンも新設したいと考えていますし、昼寝を取ることができるようなフラットなスペースも男女別に用意する予定です。
また、以前は事務所は部ごとに分かれていたのですが、フリーアドレスのような形式にして、お互いにコミュニケーションが取りやすくなっています。これからもコミュニケーションが活性化するようなオフィス作りを追求していきたいと思います。
働き方に関しては、残業時間を減らすことが目的ではなく、根本的に時間がかかっている業務を改善していくことが重要です。そのためにはDX化の推進などにも投資をしていくつもりです。
■時代に合わせて制度や環境を変えていくことが大事
WLB桜田:すでに評価制度にもメスを入れてらっしゃるそうですね。
山﨑:若い世代からの要望を受けて評価制度の刷新にも取り組んでいるところです。上手くいっている会社の事例を見聞きする機会があり、テスト的に新たな制度を実施しています。評価者によって評価基準に揺らぎがあるので、評価者間で調整ししつ、本人へのフィードバックを行うことにしており、今冬の賞与から本格始動する予定です。
WLB桜田:制度の改正や環境の整備など、社員の方とコミュニケーションを取りながら進められているわけですね。
山﨑:会社がよかれと思っても、社員が納得しなければ不満につながりますし、時代とともに必要なものも変化しています。ですから、お互いが満足いくような形にしたいですね。評価に関してはあいまいにしていた部分をなくし、「これを頑張ったら評価が上がる」というのを明確にすることが重要だと思います。
WLB桜田:最後に、これから働き方改革や健康経営に取り組もうとされている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
山﨑:まずはできることから取り組むことが大事だと思います。小千谷市も他の地方と同様に人口が減少しており、人材の奪い合いも起きつつあります。少ない人数で成果を出しながら、せっかく入社した社員に定着してもらうためには、働きやすさを追求していく必要があります。特に、今は若い人の意識も変化していますので、時代に合った経営や制度に変えていくことが重要ではないでしょうか。
WLB桜田:地域の雇用を守り、優秀な方に定着していただくことが、魅力ある商品づくりにもつながると感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
▼山崎醸造株式会社様での働き方改革の取り組みの最終共有会の様子も掲載していますので、ぜひご一読ください。
【最終報告会】社員1人ひとりの自主性・積極性がアップ!残業を減らし賞与還元も行った新潟県の老舗味噌・醤油メーカーの働き方改革