Case Study

大王製紙株式会社様

「ダイバーシティと業績向上は直結している」
大王製紙株式会社トップ自らが語る『戦略としてのダイバーシティ推進』

大王製紙グループ様は、社員一人ひとりの多様性・人格を尊重し生かすダイバーシティ経営、生き生きと活躍するための健康経営、自律人財の育成を目指しています。今回は大王製紙株式会社若林社長と弊社代表小室淑恵とによる特別対談が実現し、「ダイバーシティ」「女性活躍」「男性育休」「介護」といったテーマで語り合いました。その内容をご紹介します。

同内容は大王製紙株式会社グループ報として国内外のグループ会社と取引先に展開されました。英語版はこちら


大王製紙株式会社
代表取締役社長 社長執行役員

若林 賴房 様

ダイバーシティと業績向上は直結している

小室:本日はよろしくお願いします。まずは若林さんのキャリアについてお聞かせください。

若林:私はこの会社に入社以来、キャリアの中で約7割は新聞用紙の営業をしてまいりました。製紙業界では究極のBtoB営業であり、昔からの中核事業です。その後、秘書、総務、経理財務を経て再び営業に戻りましたが、その間にスタッフ系の仕事も経験しました。直近の4年はエリエール部門を担当し、BtoCの分野に携わってきました。

小室:ダイバーシティについて、どのように取り組まれてきたのでしょうか。

若林:社内でもダイバーシティという言葉自体はだいぶ前から聞かれるようになり、推進の必要性は感じていましたが、実際にはハー ドルが高いことも実感しています。製紙業界は男社会で体質的に古く「重厚長大産業」 の雰囲気もあり、なかなか機運が醸成されなかったのも事実です。そんな中、私自身がホーム&パーソナルケア事業に関わるようになり、商品の購買層である女性の目線を生かさなければ生活者の皆さんに受け入れていただけないと痛感しました。そこで2019年7月にダイバーシティ委員会を立ち上げ、委員長として取り組んできたという経緯です。

小室:BtoC事業では、自分の「お客様」としての体験が仕事に生かされます。購買層である女性はもちろん、男性がもっとライフの時間を持つことも重要です。私たちは「ワークライフシナジー」と表現しているのですが、ワークとライフの時間は「何対何」で切り分けるものではなく、お互いに相乗効果をもたらすものです。ライフ の体験がワークの生 産性を高め、その結果ライフの時間が生み出される……といった好循環が回るイメージです。

若林:ダイバーシティ が業績向上と直結しているわけですね。

小室:ダイバーシティというと女性活躍に注目が集まりがちですが、一人ひとりの中でダイバーシティを育む、つまり自分の中で多様な考えを受容できるようになると、全体がさらにランクの高いダイバーシティに進めることになるんです。

若林:私どもの会社の売上は、紙・板紙の分野とホーム&パーソナルケアの分野が2021年度末にほぼイーブンになる予定です。さらに2026年末には、海外売上比率を30%まで高めるよう取り組みます。そういった点からも多様な人を採用・配置し、育てていかなければなりません。

小室:社会の変化の中、中核事業のニーズが少なくなると同時に衰退する会社も多い中で、早くから新しい事業にしっかり投資して着実に発展されてきたのは本当にすごいと思います。今ホーム&パーソナルケアの分野では、育児と仕事の両立だけでなく、介護と仕事を両立する人のニーズも大きくなっており、御社としてもサポートの余地が大きいと思います。

若林:おっしゃる通りですね。

小室:さらに言えば、今、商品を買うときに消費者の多くはその会社の社会貢献の姿勢を見ています。特に働き方の問題に先進的な企業に対しては、非常にいいイメージを持って応援する傾向が顕著です。例えばサイボウズという会社は、コロナ禍で「がんばるな、ニッポン。」、「多様性に関するお詫び」という日経新聞への広告が斬新で話題になるなど、働き方の問題に一石を投じてくれるという評価が定着していることが、製品のファンを増やすことにつながっています。
これからは商品の使いやすさを追求するのはもちろん、エリエールというブランドとダイバーシティの取り組みがお客様の中で結びつくようなブランディングが求められてくると思います。

介護と仕事の両立という課題

若林:当社では今、管理職や操業員のボリュームチェーンが50代に入ってきて、人員構成のピラミッドの膨らみが上がりつつあります。定年を65歳に延長しましたが、今後70歳まで延びる可能性を想定すると、ますます膨らみが上に行くのは不可避です。介護と仕事が両立できるような制度変更を含め、場所や時間にとらわれない働き方が必須となります。また、当社では工場の操業員が多いのですが、だんだんと高齢化していく方たちのノウハウ、知の部分をどう活用していくかも喫緊の課題です。

小室:現在、介護休業を取られている方、時短の方はどれぐらいでしょうか。

若林:2020年度は1名取得した社員がいました。ただ他にも個々の事情で年次休を取って対応している方はいると思います。

小室:この国の人口構造からして、介護が発生していないとは考えにくく、実際には発生しているけれども、会社に話していないだけ、と考えるのが自然です。介護に関しては、必ず4人体制で行うべきとされています。夫婦で助け合うのはもちろん、ヘルパーさん、地域包括支援センターの職員さんとも連携しなければ、精神的にも非常に負荷がかかります。こういった介護の知識を、できるかぎり早い段階で身に付けることが大事です。現実問題として、早い人は30代から親の介護が始まります。今の女性の第1子出産年齢は30歳を超えていますから、30代出産の場合だと、育児と介護を同時に抱える確率も高くなるんです。

若林:育児と介護を同時に抱えるとなると、相当な負担ですね。

小室:育児中の妻に「介護もよろしくね」というわけには、いきません。これは実際の話ですが、ある企業の部長職の方が、奥さまに自分の母の介護をお願いしていた結果、奥さまが鬱になってしまい、最終的にその部長さんは子どもたちから縁を切られてしまいました。「お父さんはお母さんがこんな状態になっているのに、どうして毎日会社に行って遅く帰宅していたの? お父さんにとって人生の優先順位って何?その答えが出るまで会いたくない」と子どもたちから言われて、その方は結局会社を退職したそうです。でも、もっと早い段階で会社に相談して会社のサポートを受けていれば、仕事も、子どもたちとの縁も失わずに済んだはずです。

若林:要介護者が病院・施設から自宅へ帰されてしまう「2025年問題」が4年後に迫っています。当然、当社でも介護を抱える社員が急増すると想定されます。私どもは大人用紙おむつ「アテント」を提供していることもあり、医師で作家の鎌田寅先生に長年ご講演をいただいています。そういった場で介護の現状を聞くと「まさにその通り」と思いますが、本当に我が身に置き換わっているかというとなかなか…。会社のシステムを整備することを含めで課題は多いと言えます。

小室:私は介護セミナーで次のようにお話しています。「これからは、キャリアの最後まで、一度も時間制約がなく走り切る人のほうが奇跡です。もし、今家庭内で困っていることがあるなら、その問題は他のみんなが抱えている可能性も高いので、まずお互いに事情を開示しましょう。そうすればお互いさまで助け合えるようになります」。
従来の価値観をお持ちの方は「介護を抱えている事情が会社に知られたら、その瞬間に出世の可能性 が絶たれる」と恐れている人がいます。その意味でも、働く時間に制約を持つことでその後のキャリアがずっと不利になるような仕組みは早急になくしていくことが大事です。そして会社に対してフラットに相談できる状況ができれば、救われる人はきっと多いはずです。

若林:当社は子供用おむつからシニア用おむつまで作っており、育休問題・介護問題は他人事でなく自分事として考えなければならないと思っています。

なぜ男性育休が必要なのか

小室:その男性育休の現状については、いかがでしょうか。

若林:男性の育児休暇の取得率は2019年度が4%、20年度が6%という状況です。しかし、育児を目的とした「GOO.Nすくすく休蝦制度」は、19年度44%、20年度は88%まで取得率が上がっています。すくすく休暇は、業務都合で分割せざるを得ない場合も取得可能としているためハードルも低く、多くの人が取得できる雰囲気になってきました。
一方で、2週間から3カ月の育休取得となると、まだまだハードルが高い現状であることは否めません。同僚への業務負担の増加や、業務の属人化が 理由で仕事を渡せない、あるいは上司の理解不足などの問題があります。

小室:どの企業も、制度周りはかなり整えてきていますが、決定的に足りていないのは、部下の有休の消化率や労働時間が、上司の評価に反映されていない点です。職場には「率先してプレーヤーとして数字を上げるのが自分の仕事だ」と考える上司がまだ多く見られます。数字を上げることで褒められてきた成功体験があるので、上司になっても同じ行動を取ってしまうわけです。けれども、自分が数字を上げることに躍起になると、部下を観察する時間が持てず、部下に適切に休息を取らせたり、部下が抱える課題について迅速に把握したりができません。こういった上司の方々に「マネジメントの方法を変えないといけないよ」と言葉で言うだけではなかなか変わりません。やはり「あなたが褒められる評価基準は変わりました」と具体的に評価制度の中で示す必要があります。

若林:当社では、まだその部分が評価基準に入っていないのが現状です。

小室:特に男性育休に関しては、企業側が個別打診をする法案が検討されていて、2022年に施行されると見られています。つまり、子どもが生まれる男性社員に、育児休業制度を個別に説明し、取得を打診しなければコンプラ違反となります。法改正が行われてからでは混乱も大きいので、早い段階から着手することが大事です。男性 の産休の制度も導入が検討されているので、早めに準備をされるのがいいと思います。

若林:男性育休推進を進めるにあたり、並行して、育児を卒業した上層部の意識を変えるという意味で、「孫保育」のための休暇制度も作りたいと考えています。

小室:それは素晴らしいですね。さらにぜひお伝えいただきたいのですが、マネジメント層向けに一番響くのは、産後の妻の死因の1位は自殺だという事実です。年配層の男性には「男性が育休を取る=奥さんの尻に敷かれている」といったイメージがありますが、赤ちゃんを母1人でケアするのはほぼ不可能であり、核家族化の進行と児童虐待の増加はリンクしています。特に産後7時間睡眠を取らないと「産後うつ」になりやすく、児童虐待につながりやすいことがわかっています。
つまり、男性 育休は妻と子の2人の命を救うわけです。そういった知識が不足しているために男性育休が軽視されている部分もあるので、マネジメント層には早急にインプットしていただければと思います。

小室:女性活躍の戦略についても、ぜひお聞かせください。

若林:現在、女性管理職の比率は約2%ですが、強い意思を持って、この3年間で5%まで絶対に引き上げるつもりです。「女性に下駄を履かせる」と受け止める人がいるかもしれませんが…。

小室:これは長い歴史の中でずっと男性が下駄を履いてきたのに対して、その10分の1サイズぐらいの下駄をこれから女性にも履かせようという話なんです。女性活躍 を進めることで、自分の権利が失われるように感じ「逆差別だ」と捉える方は結構多いのですが、本当に持つべきは「これをやらなければ会社全体が沈むかもしれない」という危機感です。取り組みが遅れることで、会社のブランド価値が下がり、入社希望者のレベルが落ち ……となると会社という船が沈みかねません。
「隣にいる女性と競い合っているわけではなく、一緒の船に乗っているんだ」という危機感を共有していただきたいですね。

若林:「5%、5%」と言いながらずるずると時間が経過することで、女性社員が辞めてしまったり、定年を迎えてしまったりしては元も子もありません。

小室:今年来年は、各社が優秀な女性を奪い合う状況が加速すると予想されます。御社のようにブランドのしつ かりした会社には、優秀な男女が入社しています。にもかかわらず女性を登用していないとしたら、ライバル社の格好の人材引き抜きの標的となります。これからギアを上げていかないと他社に引き抜かれて行ってしまうということです。ここは気を付けられた方がいいと思いますよ(笑)。

大王製紙グループにとっての「理想的な働き方」

小室:若林さんにとって理想的な働き方とは、どんな働き方でしょうか。それを実現するために何が必要でしょうか。

若林:当社グループは、海外を入れると1万4,000人の社員がおります。グループ社員全員がチームメンバーという意識を持ち、より高い目標に向かってベクトルを合わせ一致団結して取り組める風土にすること、社員一人ひとりが生きがいを持って働ける環境にすることが重要です。社員それぞれのより良い働き方を実現し、不安定、不確実、複雑、曖昧な時代にあっても生き残る企業になることを目指しています。

小室:「人生100年時代」においては、20代で就職してから磨いてきた技術が、キャリアの後半で急に不要になることもあります。しかし、そこから学び直し、新しい仕事にも抵抗なくチャレンジできれば、会社に貢献し続けることができます。1人の人生の中で何度も仕事の転機を経験することを「ライフシフト」といいますが、そのライフシフトを会社がサポートすることも重要ですね。

若林:実は当社にはいろいろな事業があり、ゴルフ場やスポーツクラブも運営しています。私自身もそうでしたが、今まで経験したことない業種業態に異動し、鍛えられて戻ってくるというキャリアを歩むのが一般的です。会社としても、本人の適性を踏まえつつ、いろいろな経験をしながらキャリアを積んでもらいたいと思います。

小室:大和証券で、社員がどれだけ勉強しているかを調査した結果、45歳になるとピタッと学ばなくなるというデータが出たそうです。これは役職交代の年齢で、この先キャリアが上がるか横ばいかが決まると、学ぶモチベーションが低下してしまうわけです。現在、大和証券では定年を廃止していることもあり、45歳からずっと学ばない人材は、下の世代にとって大きな負担となります。そこで会社側から学びのメニューを提示し、それを選んで学ぶとポイントが得られ、ポイントに応じて本来は役職定年で下がるはずの給料が維持できるような制度を設けているそうです。このように一人ひとりが学び続け、新たなインプットをできる状況になると、職場のメンバーは仕事がしやすいのではないでしょうか。また360度評価を導入するのもいいと思います。

社内に心理的安全性を確立する

若林:働き方に関しては、仕事の属人化を排除し、業務をスリム化し、無駄なことは全部やめる。そこからしか新たな価値創造(イノベーション)は生まれません。そのためには、心理的安全性を確立し、誰もがいろいろ言い合えるようなムードを浸透させていきたい。当社では遅ればせながら4月 1日から役職呼称を改めて、さん付けで呼ぶ取り組みを始めています。初歩的かもしれませんが、そういったところから徐々に社風を変えていくつもりです。

小室:私たちがお手伝いする働き方改革の話し合いでも、チーム内での上下関係が固定されたまま話し合ってしまうケースが多々あります。例えばメンバー内で一番の若手が「会議が長いと思います」と発言したとき、上司が「君にとって長くても、重要な内容なんだ」と反論すると、もうそれ以外の人は会議について発言できなくなります。そうやって空気を読み、偉い人が求める内容に沿った話し合いを続ける限り、チーム内の問題解決が構造的に難しくなります。

若林:悪気はなくても、話し合い自体が上下関係の影響を受けてしまうわけですね。

小室:この場合、従来とは違う意思決定の仕組みが必要です。私たちが行っている「カエル会議」*1」という手法では、付せんを活用して参加者全員が意見を出し合います。コロナ禍では無記名のチャットも使いながら、誰が書いたのかわからない状態で意見を出し合うのですが、「会議が長い」「回覧物が多過ぎる」といった意見に全員が「いいね!」を付けていくと、若手が書いた意見に一番 「いいね!」が集まっていたりします。
つまり、従来は上司から否定されていた意見が、みんなの賛同を得る形で可視化されるわけです。御社の皆さんの中には本当は変えたいと思っていることがあるはずなので、このような仕掛けを通じて話し合いが行われ、働き方が変わるのを期待しています。

若林:実は私自身、もともとテレワークには懐疑的だったのですが、コロナ禍を機に取り組んでみたところ、むしろ朝夕しっかりリモートによるコミュニケーションが 活性化していることに気づき、考えが改まりました。今後コロナ禍が明けたとしても元通りの働き方に戻るつもりはなく、テレワークの推進には前向きに取り組むなど、柔軟な働き方を追求していきたいと思います。

小室:素晴らしいですね。それでは社員の皆さまにメッセージをお願いします。

若林:役職員の皆さんは、今までキャリアを積み上げてきた中でアンコンシャス・バイアス(無意識の偏った思い込み)を抱えていると思います。これを一気に払拭するのは難しいかもしれませんが、少しずつ意識を変えていければと考えています。若手、中堅の皆さんには、会社として自由闊達に言い合える雰囲気を醸成していくので、ぜひボトムアップで新たなアイデアを生み出し、企業の価値創造を確立していってもらえればと期待しています。

小室:役員の皆様には決して過去の自分を否定するのではなく、これからの「価値と勝ち」を得るためにマネジメントのバリエーションを増やしていただけるとよいですね。日本の会社では立派な役職に就かれていた人が退職後に一気に体調を崩したり、心筋梗塞になったりすることがよくあります。しかし、社内で心理的安全性を高めることで、過度なプレッシャーとストレスで自分を痛めつけることがなくなり、リタイア後に楽しく過ごすための健康も確保できます。ぜひ、ご自身の人生のためにも新しいマネジメント手法に飛び移っていただけたらと願っています。本日はありがとうございました。


*1 カエル会議・・・部署ごとに週1回実施、自分たちはこうなりたいという「ありたい姿」を部署ごとに話し合って決め、現状の課題の抽出、それを解決するためのアクションプランについて議論する会議。 本文中で小室が説明しているのはそのカエル会議をオンラインで行えるオンライン会議ツール『カエル会議オンライン』
「カエル」には早く帰る、働き方を変える、人生を変える、などの意味が込められており、「絶対に否定しない」「何を言っても大丈夫」というルールのもと、役職・年齢に関係なく和気あいあいと、自由闊達な意見交換がされています。

担当コンサルタント

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