Case Study

株式会社JERA様

D&I推進について各部門の経営リーダーが語り尽くす。講演をきっかけに、5名の役員で毎月リレー対談を実施

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JERA様は、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を自社がたゆまぬ進化を実現するための戦略の中核として位置づけ、「社員やその家族の幸せ」と「企業価値を高める成長を促すこと」をビジョンに掲げています。今回は株式会社JERA奥田代表取締役社長CEO兼COOと弊社代表小室淑恵による特別対談が実現し、「ダイバーシティ」「女性活躍」といったテーマで語り合いました。その内容をご紹介します。


ダイバーシティとは多様な考えを許容すること

株式会社JERA 代表取締役社長CEO兼COO 奥田久栄様(以下、奥田):私は経営企画部門の管掌をしていますが、経営企画部の仕事を一言でいうと、会社の動きを社会の動きとシンクロさせることです。社会を見ると、モノをたくさんつくって安く売る時代は終わり、付加価値競争の時代に転換しています。いろんな人が価値観をぶつけ合わなければ良いアイディアが出てこない。そう考えると、価値観の多様化は必然です。

私は、ライフを充実させ、ライフの中でいろいろな体験をすることが多様な価値観を受け入れる土壌になると考えているのですが、いかがでしょうか。

株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室淑恵(以下、小室):実はダイバーシティの本質は、「属性の多様な人を、いかに1つにまとめるか」ということより、「1人ひとりが多様な考えの許容性をいかに持つか」ということなんです。

このレベルに到達している企業こそが本物のダイバーシティ企業であり、その前段階で人種や性別などの多様性をクリアする必要があります。そして、1人ひとりが多様な考えを許容する上で一体何が重要なのかを考えていくと、24時間を会社で過ごさないことなんです。

24時間、ほぼ会社のメンバーと過ごしている人は、考え方のベースが会社の思考でつくられることになります。一方、定時に帰宅すれば、もう1つのコミュニティに参加できます。例えば空手やサッカーを習う、保育園の送り迎えをすることになれば、学歴や職種が異なる人とコミュニケーションを取る機会が生まれます。そこから多様な考えの許容性を養えるのではないかと思うんです。

奥田:ライフでどんな体験をするかが、ワークの質を上げるということであり、そもそもワークとライフは対立概念ではなくて延長概念ですね。

小室:私たちは「ワーク・ライフシナジー」と呼んでいます。

奥田:私自身、東京には単身赴任で来ており、コロナ禍では自ら家事をやらないと生きていけない状況に直面しました。これはとてつもない異文化体験でした。仕事がぎっちり入っている中で、わずかの合間で段取りよく食事を作り、急いで食べることがいかに難しいか。こういう経験をした人としない人では、明らかに仕事の質は変わりますよね。経験すれば、確実に仕事の段取り力が良くなるはずです。

小室:おっしゃる通りであり、男性育休にも同じ効果があります。今までいかにみんなにお膳立てしてもらっていたかが分かるということです。

オーケストラに学んだ価値観の変化

奥田:家事に関してはまだまだ初心者ですが、私はもともと仕事をなるべく早く切り上げ、自分の価値観を広げるための活動をしていました。ウォーキングやジョギングもしますし、美術館やクラシックのコンサートに行くのがとても好きで、ずっと続けています。

ちなみに、クラシックの演奏のスタイルが、まさに人口ボーナス型(*1)から人口オーナス型(*2)に変わった瞬間があるんです。1970年代までは、カラヤンというカリスマ指揮者がいました。ベルリンフィルを大編成にして、一糸乱れぬアンサンブルで美しい音楽を生み出す素晴らしい芸術であり、これはまさに大量生産モデルでした。80年頃を境にしてオーケストラが小さくなり、指揮者は無理に音楽をつくらなくなります。演奏者それぞれの個性を生かして、個性のぶつかり合いで音楽を聴かせる形に変わるんです。

JERA様奥田様

小室:観客は変化についていけたのでしょうか。

奥田:それが難しいんです。自分たちが聴いていた音楽とは違うものが目の前で起こるので、最初はびっくりします。これが聴きたかったオーケストラなんだろうか、と。ただ、何度も聴いているうちに突然理解できるんです。この話は価値観の多様化に通じるものがあります。

自分の頭の中を1回からっぽにしないと、新しい価値観はなかなか入ってこないし、ライフでの経験を通じてこの訓練をしなければならない。訓練を通じていろいろな価値観を寛容に受け入れられるようになって初めて、受けた刺激をクリエイティブな活動につなげられるのではないでしょうか。

小室:オーケストラからそれを感じ取られるとは!

奥田:芸術の世界はルールがないので、ビジネスよりも時間が早く進みます。40年前にすでに変化が起きていて、それが今ビジネスの分野でもあらわれているわけです。そういう価値観の変化を直感的にとらえることが大事なので、私はクラシックに限らず美術館やコンサートに触れておくのをすすめています。ロックでもジャズでもなんでもいいんです。そこで変化に気づく感性を養っていないと、企画の仕事はできないと思うんです。

小室:本当にその通りですね。

奥田:組織に話を戻すと、仮に多様な人材を集めても、その人たちが本当に個性や能力を発揮できなければ、会社は価値を生み出せません。職場風土・カルチャーが、大量生産時代の同質的なものにとどまっている限り、上司は指示型になってしまうので、そこから変えていかなければ駄目だと思います。

世界的に見ると、アメリカではいまだに教育の中でディベートが重視されていますが、私の感覚では相手を打ち負かして自分の価値観を押し通す技術であり、多様な価値観の否定であると感じます。一方、日本ではとにかく妥協点を見出すことに重きを置きますが、これも違うと思います。弁証法的な、ぶつかり合いの中から新しい発想や価値観を生み出す雰囲気はどのようにつくればよいのでしょうか。

小室:例えば弊社のカエル会議オンラインというツールでは、議題ごとに匿名で意見を書き込めるのですが、そういったオンラインのコミュニケーションに可能性を感じています。対面での議論の場合、職位や見た目、性別などの属性の影響を受けながらお互いに発言することになります。

しかし、ITツールを活用すれば、そういった影響を排除しながらティスカッションを行うことができます。私たちもコロナ禍でオンラインでの議論を始めたときは不自由さを感じたのですが、実際には新しい手法を取り入れたことで、堂々と意見を主張する人が出てきました。従来とは異なる手法で議論をしてみることも大事だと思います。

奥田:「クリエイティブなディスカッションはリアルじゃないとできない」と言われがちですが、むしろバーチャルな空間のほうがいろいろな意見を言えて、よりクリエイティブな議論になる可能性があるわけですね。

なぜ女性活躍が必要なのか

奥田:多様な人材を育てることの重要性は共通認識になってきましたが、スタートが女性からなの? という点が社内でもまだ議論になっています。ぜひ小室さんのお考えをお伺いしたいです。

小室:これは一言でいうと、他社との競争、世界との競争だからということです。いまや女性活躍は世界で競争する上で最低限クリアすべき項目になっていますが、日本は国全体でクリアしていません。そんな国の中でも、自社さえクリアすれば世界からお金も人材も集まってくるようになります。日本企業の中で、女性活躍はどんぐりの背比べ状態にあるので、しっかり推進すれば数年でトップクラスに行けます。

御社の場合、入社時点で非常に優秀な女性が入っているので、他企業で女性活躍に取り組むよりも簡単です。戦い方の分からない他の項目に比べたら、相当有利な条件で戦って勝てる項目なので、逆に「後回しにする理由がどこにあります?」と不思議に思うくらいです。

奥田:多様な価値観の人材を集めて、新しい価値を生み出すのが最終ゴールであり、それを実現する手段として、女性活躍から入るのが一番分かりやすいし、達成しやすさの面からもベストということですね。

小室:最低限の項目をクリアしていない企業には、いい人材が集まりません。いろいろ高尚なダイバーシティを実現したくても、それ以前に志望者から見限られてしまいます。

中途採用をするときにも、「育児中で他社に評価を受けていないけれど能力の高い女性」なら、同じ能力なのに比較的男性より採りやすく、入社したあとも残業をしないために高い生産性で働いてくださるので2倍、3倍においしいです。ちなみに弊社は全員で残業ゼロを実践しているので、「こんな優秀な人がうちに来てくれるの?」と驚くような人材が入社してくれるのですが、2児・3児の母で、前職では苦労してきています。

会社の働き方を変えて、育児中の女性であれ、介護中の男性であれ、無理なく両立できる状態にした上で、どんどん登用していく。そうすると、他社では「優秀だけど評価されなかった有望な人」をどんどん採れるので、中途採用も増やせるし女性も増やせて、かつ生産性の高い働き方の見本になってくれるのです。

コミュニケーションのシステムをつくる

奥田:女性活躍を図っていく上では、女性をステレオタイプでとらえるのではなく、1人ひとりの個性や能力をしっかり見出す必要があります。一方で、最近はコンプライアンスの問題もあるので、どのように女性とコミュニケーションを取れば本音ベースで対話できるのかという悩みを抱える男性上司が多いと思うのですが……。

小室:男性上司と同じ職位に一定数の女性がいれば「僕はこういう問題にぶつかってるけど、あなたはどうしてるの?」とマネジメントの仕方を相談でき、自身のマネジメントに活かすこともできます。つまり、フラットに相談できる相手がいないところに、一つの問題があります。その意味では、組織として早く女性を引き上げる必要があります。

ただ、これは一足飛びには実現できないので、まずは女性たちが相談できる人をつくってあげることが効果的だと思います。社内に「この人たちに相談すれば解決する」というロールモデルがいるのが理想ですが、いないときには社外の人でもかまいません。

例えば、アパレルのオンワードさんでは取締役予備軍の部長層の女性たちに社内の男性メンター(執行役員)をつけています。さらに、その男性たちに社外のメンターをつけることで女性の相談を受ける力をトレーニングしています。また、部長層の女性たちが直接社外のメンターに相談することもできます。

奥田:システムをつくる必要があるということですね。

小室:先進的な企業は、「○年度に○割」といった目標から逆算して、計画的に女性を育成しています。研修などを通じてコミュニケーションの質を上げつつ、メンター制度を整えておくことをおすすめします。ほかには「ゲーミフィケーション」といって、ゲーム形式で学びながら自分の価値観を刷新していく手法があります。私たちはお客さまとアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み・偏見)を排除していくための「ライフ・スイッチ」というカードゲームをしています。

例えば、50代の営業職の男性がゲーム内で「30代育児」のカードを引き、その立場を疑似体験すると、ライフのタスクが山ほどあって、帰宅してからの方が忙しいことに気づきます。そこで「現実に30代の育児って毎日そうなんです。出社直前まで猛烈にライフのタスクを終えて、やっとの想いで会社にたどり着いているんです。あなたの部下もみんなそうですよ」とお伝えすると、びっくりするわけです。

ゲームを通じて、成果を上げるためには仕事の属人化を排除し、チーム全員でお互いに助け合っていくことが重要だと理解できるようになるんです。

JERA様事例小室さん

制度づくりは「お互い様」が基本

奥田:小室さんの講演では目からうろこが落ちる話をたくさん伺いましたが、例えば産後うつのリスクについては、男性はなかなか理解していないのが現状です。出産直後の女性の睡眠時間を確保するためには、男性の働き方改革が肝であるというのは、ご指摘の通りです。また、詐欺師症候群(*3)の存在はまったく気づきませんでした。確かに優秀な女性ほど、登用しようと思って声を掛けると、なぜか「NO」と言う。本人にその意思があって頑張っていたはずなのになぜだろうと疑問に感じていましたが、謎が解けました。

小室:一方で、「○○さんが、あなたにすごくやってほしいと期待していたよ」と言われると、女性は百万馬力で頑張れるんです。自分のためというより、誰かのために頑張ることですごくモチベーションが湧く傾向があるので、「最近いろんなところから、あなたに課長になってもらいたいという声があるんだよ」と、周りから期待されていることを真っ先に伝えてあげるといいと思います。

奥田:男女に生物学的な違いがあるという前提で、どうするかを考える必要があるんですね。

小室:例えば、男性は更年期障害について「女性がヒステリックになる」というイメージを持っていると思いますが、実は本当に深刻な症状で、うつになるリスクも高いんです。ですので、ちょっとした予兆が見られたときに、婦人科を受診することが大事です。でも、休むときに理由を言わなければならない職場では、通院しにくいという問題があります。

私たちの会社では、理由を問わずに休める「新しい休み」という制度があり、有休にプラスして15分単位で取得できる、年間36日分の有休があります。実は、これはひととおり不妊治療ができる日数でもあります。育児をしている人が保護者会に参加するときに使ったり、介護をしている人が、朝、介護施設に送るために使ったりもしています。独身の人がアメリカ横断旅行をすることもあります。

奥田:理由を問わないのがポイントですね。

小室:特定の人を保護する制度では、保護された側の肩身が狭くなって、昇進意欲がなくなることにつながりますが、こういう制度は独身者も堂々と使えるので、お互い様になるんです。

上司の「聞く力」を育てよう

奥田:私は会社人生30有余年、ずっと男社会で生きてきましたが、昔は夜飲みながら上司と部下がコミュニケーションを取るのが主流でした。これでは「女性は飲みに誘えないから、個性も能力もよく分からないよね」となってしまいます。

でも、今は先ほどお聞きしたようなシステムをつくり、その中で管理職が部下の個性や能力を見出す能力をつけなければなりません。あらゆる管理職がその能力を身に付ければ、男女の区別なく同じ土俵で評価できるはずです。

小室:コロナ禍で「在宅勤務は生産性が落ちる」と答えたのは主に40、50代で、「生産性が上がる」と答えたのは20、30代の人たちでした。落ちると答えた人たちに理由を深掘りしたところ、「部下の様子が分からなくなる、部下の話が聞けなくなる」と答えたのですが、さらに聞いていくと、実は仕事帰りに飲みに誘えなくなるということだったんです。

部下に話を聞くと、「僕たちはもっと話を聞いてもらいたいですが、それは業務時間中にお願いしたいです。しかも飲みの席で話しているのは、ほぼ上司ですよ」と言っていました。

つまり、上司は「部下の話を聞いてあげられなくなった」ではなく、「オレの話を聞いてくれる人がいなくなった」と言っていたんです。

上司に求められているのは、部下の話を聞き、やめたいと思っている業務を理解し、「社内の報告資料ってこんなに必要でしたっけ?」「この資料は、2か月に1回でいいんじゃないですか」という話を会社の上層部に持っていくことです。そうやって課題を聞き入れて動いてくれる上司は部下から信頼されます。本当に重要なのは飲みニケーションではなくて、こういうコミュニケーションです。

奥田:まったく同感です。上司が一方的に話すのは、ただのストレス解消でしかありません。

小室:マネジメントをティーチング手法からコーチング手法に変えることも重要です。管理職には部下の話を聞くのが苦手な人が多く、優秀な人ほど部下の話を聞いている最中に自分の意見がパッと浮かび、忘れたくないのですぐその場で口にしてしまいがちです。そうすると、部下は「この人、自分の話聞いてない」と思い、話すのをやめてしまいます。

そこで私たちが行っている管理職研修では、とにかく聞く力を養うことを重視しています。例えば簡単な手法ですが、部下の話を聞くときは、目を見てうなずきながら相談内容をしっかりメモしながら、途中で思い浮かんで言いたくなってしまった自分の意見を、すぐに口にせずに、忘れないように書き留めておく。

そうすると、落ち着いて部下の話を聞けるようになります。最後まで話を聞いた結果、自分では思いつかないレベルの答えを部下が出してくるときがあります。自分を超えてくる瞬間を体験できるんです。「きみの考えでぜひ進めてみて」とGOサインを出せるでしょう。

奥田:そんな経験ができれば、マネジメントが楽しくなります。

小室:これを体験すると、自分の発想がすべてではないと知るので、本当に部下の話を聞きたくなってくるんです。上司が話を聞き入れてくれるようになれば、部下の学ぶ意欲も増え、終業後に勉強会や違うコミュニティに参加するようになります。組織が勝つためには、こんなふうに若手主導で動く状況をつくらなければなりません。逆に言うと、今までそれを阻害してきたのは自分のコミュニケーション手法かもしれないんです。

奥田:上司が聞く力を身に付ければ、フラットに議論できるようになるわけですね。

小室:今までいろいろ忖度してもらうことに快適さを感じていた上司は、部下が意思を持ち始めた当初は居心地の悪さを感じます。でも、「これはどうしたらいいですか?」と部下から聞かれ続ける毎日から脱却すれば、ビッグビジョンを描く自分の時間を持てるようになります。これは忖度されるよりもエキサイティングです。そんなふうに管理職の仕事の本当の面白さに気づいていただけるといいですね。

奥田:今日はいろいろ貴重なお話をありがとうございました。

JERA様事例最終奥田様との対談前に実施した、役員経営層の方々への講演の様子


*1 人口ボーナス期
人口構造がその国の経済にボーナスをくれる時期のこと。若者が多く、高齢者が少ない人口構造であり、この時期にある国は安価な労働力を武器に世界中の仕事を受注する一方で、社会保障費はかさまないため、経済発展を享受できる。

*2 人口オーナス期
人口構造がその国の経済に重荷に働く時期のこと。オーナスは日本語で「重荷・負担」を意味する。この時期には人件費の安さで経済発展する手法は通用せず、社会保障制度の維持が困難となる。オーナス期に浮上するには、「女性、障がいを持つ人、親の介護をする人などが働きやすい環境をつくること」「真に有効な少子化対策」の2点が求められる。

*3 詐欺師症候群
十分な実力がありながらも理由もなく自信が持てずに悩む症状。周囲に褒められると詐欺行為を働いたような気持ちになるため、「上昇志向がない」などと誤解されやすい。特に女性に多く見られる傾向がある。

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